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化学よもやま話
~研究室訪問記~ 科学クラブを訪ねて: 駒場東邦中学校・高等学校 化学部
はじめに
TCIメールでは,国内外で活躍する中高等学校の科学クラブの活動を紹介しています。第三回目となる今回は,2013年3月に開催された化学クラブ研究発表会(日本化学会関東支部主催)で最優秀賞とベストポスター賞に輝いた駒場東邦中学校・高等学校 化学部にスポットを当てたいと思います。
同校では,「自分で考え,答えを出す」という学習基本方針に基づき,中学1,2年ではクラスを二分した少人数実験を毎週行うなど,実験と観察を重視した理科教育を実践しているそうです。同校化学部には2013年9月14日の文化祭と,10月21日のクラブ活動日に訪問しました。取材に伺った10月21日は,ちょうど文化祭終了後に発足した,高校1年生を中心とする新体制での活動が始まった時期でした。実験中,生徒たちは常に白衣と保護眼鏡を正しく着用しており,安全管理指導に力を入れている様子が伝わってきます。
駒場東邦中学校・高等学校の化学部員の集合写真(弊社試薬もご利用頂いております)
駒場東邦中学校・高等学校 化学部の紹介
本化学部は1957年の同校が創立された年に設立されました。新たな体制で就任した新部長が56代目となる歴史あるクラブです。2013年度は部員58名で(中学生32名,高校1&2年生26名),顧問の松岡先生,人羅先生,柳澤先生のご指導の下で活動しています。活動日は週3日で,部員は数人ずつの班に分かれ,それぞれが班のテーマに沿った実験・研究を行っています。班名には,代々受け継がれている「チンギス班」や「フビライ班」といったユニークな名前もあり,実験にひたむきに取り組みながらも,ちょっとした遊び心も取り入れて活動している姿が印象的です。各学期の始めに,それぞれの研究班の班長は実験の大まかな目標を設定し,これをもとに後輩の班員を指導しながら,一緒に実験を進めていきます。そして学期末には,得られた実験結果について部内発表会を行い,次の学期に向けた新たな目標を設定していきます。なお,入部希望の新中学1年生には,4月の入部から9月の研究班配属までの間,基礎化学講義と実験講習を受けることを義務付けています。半年間,化学と実験の基礎を学ぶことで初めて研究者としてのスタートラインに立てるようになり,班の一員として迎えられるのですね。
日々の実験の積み重ねで得られた研究成果は,日本学生科学賞(東京都大会9月,本大会11月),日本化学会関東支部の化学クラブ研究発表会(3月),千葉大学高校生理科研究発表会(9月)などで発表しています。これら大会は研究発表の場であると同時に,他校の生徒との交流の場にもなっています。夏休みを利用した課外活動も欠かせません。8月にはクラブ合宿や工場見学を行うことで化学と社会の結びつきを学びます。さらに文化祭の準備もありますので,夏休み期間中も精力的に活動しています。その成果もあってか,9月に訪れた文化祭で目にした演示実験会場は,大人を含めた多くの一般来訪者で賑わっていました。
初めに述べたように,本クラブでは,安全管理に重点を置いています。実験中の白衣・保護眼鏡の着用はもちろん,参加部員全員が使用した試薬の量と使用時間,並びに活動内容と感想を記入した活動報告書を毎回作成して提出しています。顧問の先生方は常に活動場所を監督しており,ディスカッションや安全指導を随時行うことで,生徒たちの実験技術・知識のさらなる向上と安全を支えています。
文化祭演示実験
(手前:スライム制作体験,奥:化学マジック実演)
クラブ活動中の様子
(PCを前にディスカッションしている生徒)
2013年度研究受賞実績
◇化学クラブ研究発表会(日本化学会関東支部主催)最優秀賞
◇日本学生科学賞東京都大会(高校の部)最優秀賞,中央最終審査出場
「鉛系リーゼガング現象の研究」: リーゼガング現象研究班
リーゼガング現象とは,ゲル中の物質とゲルに接触した物質が反応することで,ゲル中に規則的な沈殿が形成される現象を指します。本研究では,ヨウ化鉛(II),塩化鉛(II)が沈殿するリーゼガング現象について実験を行い,濃度とパターンの関係を調査していました。続いて,二種の陰イオンを混合した場合においても,同様の観察を行っていました。その結果,混合型リーゼガングリングでは,まず塩化鉛(II)のパターンが生成し,ついで,ヨウ化鉛(II)のパターンが徐々に下に向かって成長することを確認しています。その際,塩化鉛(II)の沈殿が,溶解度積のより小さいヨウ化鉛(II)に置換され,その表面からヨウ化鉛(II)特有の針状結晶が成長していく様を報告しています。
リーゼガング現象とは,ゲル中の物質とゲルに接触した物質が反応することで,ゲル中に規則的な沈殿が形成される現象を指します。本研究では,ヨウ化鉛(II),塩化鉛(II)が沈殿するリーゼガング現象について実験を行い,濃度とパターンの関係を調査していました。続いて,二種の陰イオンを混合した場合においても,同様の観察を行っていました。その結果,混合型リーゼガングリングでは,まず塩化鉛(II)のパターンが生成し,ついで,ヨウ化鉛(II)のパターンが徐々に下に向かって成長することを確認しています。その際,塩化鉛(II)の沈殿が,溶解度積のより小さいヨウ化鉛(II)に置換され,その表面からヨウ化鉛(II)特有の針状結晶が成長していく様を報告しています。
◇化学クラブ研究発表会(日本化学会関東支部主催)ベストポスター賞
◇日本学生科学賞東京都大会(高校の部)努力賞
「トラウベの人工細胞の研究」:金属班
[Fe(CN)6]3-または[Fe(CN)6]4-は主に遷移金属イオンと反応して有色沈殿を生成します。この反応を水溶液と結晶という組み合わせで起こした現象に「トラウベの人工細胞」というものがあります。本研究では,この人工細胞の形状を観察するとともに,類似の現象であるケミカルガーデンと関連させつつ,詳細な生成メカニズムを研究しています。その結果,水溶液の濃度によって,成長の方向や沈殿膜の緻密さが決まってくることを明らかにしています。
[Fe(CN)6]3-または[Fe(CN)6]4-は主に遷移金属イオンと反応して有色沈殿を生成します。この反応を水溶液と結晶という組み合わせで起こした現象に「トラウベの人工細胞」というものがあります。本研究では,この人工細胞の形状を観察するとともに,類似の現象であるケミカルガーデンと関連させつつ,詳細な生成メカニズムを研究しています。その結果,水溶液の濃度によって,成長の方向や沈殿膜の緻密さが決まってくることを明らかにしています。
◇日本学生科学賞東京都大会(高校の部)奨励賞
「ノーカーボン紙の着脱色の研究」:樹脂班
クリスタルバイオレット(CV)は,pH指示薬や細胞染色液の他,ノーカーボン紙のインクとして用いられる色素です。本研究ではマイクロカプセルにCVを閉じ込め,摩擦によって色を出す紙を作っています。このカプセルを寒天中に分散させ,衝撃で色が変わる寒天作成への応用を検討中です。
クリスタルバイオレット(CV)は,pH指示薬や細胞染色液の他,ノーカーボン紙のインクとして用いられる色素です。本研究ではマイクロカプセルにCVを閉じ込め,摩擦によって色を出す紙を作っています。このカプセルを寒天中に分散させ,衝撃で色が変わる寒天作成への応用を検討中です。
付記: CVは弊社製品(TCI製品コード:C0428)をご利用頂いておりました。
◇千葉大学高校生理科研究発表会 ポスター発表
「2種類の塩によるケミカルガーデンの研究」:結晶班
2013年度コンクール参加受賞実績
◇化学グランプリ2013
銀賞(高3山西 智紀 君),関東支部長表彰(高2水野 博之 君)
◇東京都中学生科学コンテスト
銀賞(中2チーム),銅賞(中1チーム)
雑誌記事掲載
“駒場東邦中学・高等学校化学部 リーゼガング現象の探求”日本化学会, 化学と教育 2013, 61(7), 352.
新部長・先生の声
新部長・副部長の石川君と小野君(いずれも高校1年生)に,入部ガイダンスの演示実験を見て実験に興味を持つようになったという入部動機や,前述の班による下級生指導について話を聞きました。先生からは,発表会出展枠が限られているため,部内選考会の結果,仕方なく出展を見送らなければならない研究班が出てしまう,大所帯ゆえの悩みも伺いました。
おわりに
最後に,実験室入口に掲示してあった化学部標語「安全第一,眼鏡着用,新発見は未来の扉」の紹介をもって本取材記事を閉めたいと思います。駒場東邦中学校・高等学校 化学部の益々のご活躍とご発展を期待しています。TCIメールでは,新しい出会いと発見を求めて,今後も中・高等学校の科学クラブの活動を紹介していく予定です。
実験室入口に掲示してあった化学部標語
試薬使用量の書かれた活動報告書の一部