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不均一触媒は回収および再利用が容易であることからサステナビリティが高く、SDGsの観点からも重要です。このため、不均一触媒を用いた水素化反応は経済的で環境負荷の低いプロセス設計が可能です。水素化は還元反応の一種として知られており1)、多重結合、ニトロ基、ベンジル基、カルボニル基、さらには芳香環などに対して水素を付加し、これらを還元する反応です。これらの変換は有機合成化学において有用であり、ラボスケールからプロセスケミストリーに至るまで広く利用されています。水素化反応は一般に、水素ガスを水素源とし、触媒の存在下で進行します。用いられる触媒としては、金属錯体を主とする均一系触媒および、担体に金属を担持した不均一系触媒に大別されます。特に不均一系触媒は、反応系に溶解しない固体触媒であるため、反応後の後処理が簡便であり、多くの場合はろ過のみで高純度の目的物が得られます。
不均一系触媒を用いた水素化反応は、その高い実用性および再利用性から有用な手法として広く用いられているものの、いくつかの課題も存在します。例えば、複数の還元可能な官能基が共存する場合に、目的官能基の選択的水素化が困難となることがあります2)。また、多くの不均一系触媒は反応活性を十分に発揮させるために、高温・高圧といった過酷な反応条件を必要とすることが少なくありません。さらに、反応後のろ過において触媒が目詰まりを引き起こす可能性や、反応系中での分散性が不十分であることなども挙げられます。これらの点は、反応のスケーラビリティおよび操作性の観点からも重要な課題であり、今後の触媒設計およびプロセス開発において解決が求められています3)。
弊社では、14品目の活性炭担持貴金属触媒をラインアップに追加しました。汎用型触媒に加え、貴金属の担持方法を改良したegg-shell型触媒、ろ過性およびろ過速度の向上を図った触媒、硫黄被毒によって脱ハロゲン化などの副反応を抑制するタイプの触媒、さらには反応液の液性(pH)調整に役立つ触媒など、各用途に応じた製品群をご用意しています。これらの触媒は、水素化反応における反応条件の最適化や選択性の向上を目的としたスクリーニング試験、さらにはスケールアップを見据えたプロセス開発において有用です。
製品
- P3300
- Palladium 5% on Carbon, M type (wetted with ca. 55% Water)
- P3299
- Palladium 10% on Carbon, M type (wetted with ca. 55% Water)
- P3302
- Palladium 5% on Carbon, PH type (wetted with ca. 55% Water)
- P3303
- Palladium 7.5% on Carbon, PH type (wetted with ca. 53% Water)
- P3301
- Palladium 10% on Carbon, MA type (wetted with ca. 53% Water)
- P3294
- Palladium 5% on Carbon, EA type (wetted with ca. 55% Water)
- P3295
- Palladium 5% on Carbon, EB type (wetted with ca. 55% Water)
- P3297
- Palladium 5% on Carbon, LA type (wetted with ca. 55% Water)
- P3298
- Palladium 5% on Carbon, LB type (wetted with ca. 55% Water)
- P3304
- Platinum 2% on Carbon (wetted with ca. 55% Water)
- P3306
- Platinum 5% on Carbon (wetted with ca. 55% Water)
- P3305
- Platinum 3% on Carbon (wetted with ca. 55% Water) (Modified by Sulfur)
- R0322
- Ruthenium 5% on Carbon, SD type (wetted with ca. 55% Water)
活性炭担持貴金属触媒は乾燥させると発火する可能性があるため、約50%の含水品として販売しています。本品は川研ファインケミカル株式会社とのタイアップで製品化されました。製品の特長や用途をまとめたパンフレットもご用意しています。また、大量購入を希望される際は別途お問い合わせください。
特長
- パラジウム、白金、ルテニウムを担持した14種類の豊富なラインナップ
- 汎用タイプだけでなく、特殊タイプの担持触媒もラインナップ
- 脱ハロゲン化等を抑制し、官能基選択的な水素添加反応が可能
活性炭担持貴金属触媒の概要と推奨反応例
(*) の反応はこのページに利用例を掲載しています。
| 製品 (% は担持率) | 製品コード | 概要 | 推奨反応例 | |
| Pd/C | M型, 5% | P3300 | 汎用型の水素化触媒。 幅広い反応に高活性を示す。 | オレフィン、ニトロ基、アルデヒド、脱ハロゲン化 |
| M型, 10% | P3299 | |||
| PH型, 5% | P3302 | 多くの反応に高活性を示す。特に、脱ベンジル化や核還元、オレフィン、ニトロ基の水素化に用いられる。 | 脱ベンジル化、核還元*、オレフィン、ニトロ基 | |
| PH型, 7.5 | P3303 | |||
| AD型, 5% | P3293 | ろ過性に優れた触媒。高アルカリタイプであり、イミンの水素化やフェノールのシクロヘキサノンへの変換に有効。 | ニトロ基*、イミン、核還元、 オレフィン、脱ハロゲン化 | |
| MA型, 10% | P3301 | 中性~弱酸性タイプの触媒。酸性側での反応に適し、核還元や水素化脱水反応などに使用される。 | 核還元、水素化脱水 | |
| EA型, 5% | P3294 | 中性~弱酸性で、表面担持タイプの触媒。酸性側での反応に適し、 核還元や水素化脱水などに有効。 | 核還元*、水素化脱水 | |
| EB型, 5% | P3295 | 塩基性で、表面担持タイプの触媒。多くの反応に使用可能である。 特に脱ベンジル化やアルデヒドの水素化に優れる。 | 脱ベンジル化、アルデヒド、 オレフィン、ニトロ基 | |
| LA型, 5% | P3297 | EA型の改良型触媒。弱酸性で、低温・低圧条件下でのニトロ基、 オレフィンの水素化反応に有効。 | ニトロ基*、オレフィン、脱Cbz化* | |
| LB型, 5% | P3298 | EB型の改良型触媒。弱塩基性で、低温・低圧条件下での、ニトロ基、 オレフィンの水素化、脱ベンジル化反応に有効。 | ニトロ基、オレフィン、 脱ベンジル化* | |
| Pt/C | 2% | P3304 | 汎用型の白金炭素触媒。パラジウム触媒と同様にオレフィン、ニトロ基、アルデヒド、ケトン、イミン、オキシム、芳香環の水素化反応などに使用される。パラジウム触媒と異なり、脱ベンジル化が起こりにくい。 | オレフィン、ニトロ基、アルデヒド、ケトン、イミン、オキシム、核還元 |
| 5% | P3306 | |||
| 硫黄修飾 3% | P3305 | 有機硫黄化合物による被毒処理を施した白金触媒。 脱ハロゲン化を抑制したニトロ基やオレフィンの水素化に有効。 | 官能基選択的還元 (脱ハロゲン化抑制)* | |
| Ru/C | SD型, 5% | R0322 | 芳香環、オレフィン、ケトン、カルボン酸、エステルの還元能力に特徴がある。脂肪族アルデヒドや糖類の水素化に有効。 | 核還元、カルボン酸、エステル |
パラジウム炭素触媒の官能基選択性 2)
※反応条件や基質の種類によって触媒性能は異なるため、あくまでも参考データです。
| 反応部位 | 基質 | 生成物 | パラジウム炭素触媒 / 製品コード | |||||||
| M型 | PH型 | AD型 | MA型 | EA型 | EB型 | |||||
| 5% | 10% | 5% | 7.5% | 5% | 10% | 5% | 5% | |||
| P3300 | P3299 | P3302 | P3303 | P3293 | P3301 | P3294 | P3295 | |||
| 二重結合 | 1-デセン | n-デカン | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ||
| 二重結合 | イソホロン | 3,3,5-トリメチルシクロヘキサノン | ○ | ○ | ー | ◎ | ◎ | ○ | ||
| ニトロ基 | p-ニトロトルエン | p-トルイジン | ○ | ○ | ー | ー | ◎ | ◎ | ||
| ケトン | シクロヘキサノン | シクロヘキサノール | ー | ー | ー | ○ | ○ | ー | ||
| 芳香環 | フェノール | シクロヘキサノン | ○ | ◎ | ◎ | ー | ー | ◎ | ||
| 芳香環 | ピリジン | ピペリジン | ー | ー | ー | ◎ | ◎ | ◎ | ||
| 芳香環 | 安息香酸 | シクロヘキサンカルボン酸 | ○ | ○ | ー | ○ | ◎ | ー | ||
| アルデヒド | ベンズアルデヒド | ベンジルアルコール | ○ | ー | ー | ー | ー | ◎ | ||
| 水素化脱水 | ベンジルアルコール | トルエン | ー | ー | ー | ○ | ◎ | ー | ||
| 脱ベンジル | 安息香酸ベンジル | 安息香酸 | ○ | ◎ | ー | ー | ー | ◎ | ||
利用例
脱ハロゲン化が抑制された水素化反応 4)
硫黄修飾白金炭素触媒(製品コード:P3305)は、被毒処理により還元力が抑えられているため、ニトロ基や多重結合が共存する水素化において脱ハロゲン化をほとんど起こしません。
低温・低圧での水素化反応 4)
水素化反応は反応促進のため、通常水素加圧下で行われます。
LA型およびLB型パラジウム炭素触媒は活性が高いため、低温・低圧条件での水素化が実施できます。
この結果、副反応が問題となる系においても、副生成物を抑えた水素化が可能となります。
実施例4)では、ピリジン環やインドール環は反応に影響を及ぼさず、カルボキシ基も水素化されません。
核還元 4)
本反応では、C-O結合の水素化分解がほとんど起こらないため、目的物を効率的に合成できます。
脂環式ジオールモノマーは、耐熱性や透明性に優れたポリエステル樹脂やポリカーボネート樹脂に利用できます。
sp3炭素豊富で3次元性が高いビルディングブロックの合成 4)
近年創薬研究において、水溶性の向上や代謝安定性の改善のため、平面性が高い芳香環よりも、sp3炭素豊富な骨格が好まれています。核還元はそのようなビルディングブロック合成に役立ちます。
高い濾過性及び分散性を両立するパラジウム炭素触媒 5)
不均一系触媒は反応終了後ろ過により除去されますが、この際、ろ過速度は作業時間に大きな影響を与えます。ろ過性と分散性はトレードオフの関係にあり、分散性が大きく反応性が高い触媒は、径サイズが小さいため目詰まりしやすく、ろ過速度が遅くなることが知られています。
AD型パラジウム炭素触媒は粒子径が制御されているため、ろ過性および分散性がともに優れています。
引用文献
- 1) Development of the Applications of Palladium on Charcoal in Organic Synthesis
- 2) Chemoselective control of hydrogenation among aromatic carbonyl and benzyl alcohol derivatives using Pd/C(en) catalyst
- 3) Unit Processes Review - Hydrogenation and Dehydrogenation
- 4) 川研ファインケミカル株式会社 資料
- 5) A. Kunida, S. Takasaki, S. Dainaka, JP3244605B2, 2001.