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化学よもやま話

糖と甘味料

宇都宮大学 教育学部 理科教育講座 教授 山田 洋一

 糖の中でもっとも有名なのが,甘味料としてすぐに思いつく砂糖であろう。サトウキビやサトウダイコン(ビート,甜菜(てんさい))などに多く含まれているが,他の植物中にも広く存在する。化学名はスクロース(ショ糖)といい,グルコース(ブドウ糖)とフルクトース(果糖)という二つの糖分子が結合するときに,1分子の水がとれて縮合した形になっている。

 このような結合はエーテルの基本構造であり,糖のエーテル結合を特にグリコシド結合という。特徴的なのは,この結合によりグルコースとフルクトースが本来持っていた還元性やその他の性質が,スクロースではつぶされた形になっていることである。実験的には,うすい塩酸または硫酸の入ったフラスコ中で砂糖を加熱すると,スクロース1分子がグルコース1分子とフルクトース1分子とに分解(加水分解)されることが知られている。ちょうど,縮合の逆反応だ。このようにスクロースが加水分解される反応を転化,グルコースとフルクトースの1:1混合物となった糖を特に転化糖という。
 ヒトが砂糖を食べると腸内のインベルターゼやスクラーゼという酵素が働き,同様にスクロース1分子がグルコース1分子とフルクトース1分子とに転化する。ミツバチが集めたハチミツの場合には,ミツバチのだ液中のフルクトシダーゼという酵素が働き,ハチミツの中でかなり転化が進行している。ハチミツが砂糖より甘く感じるのは,このように大部分(70~80%)のスクロースが分解し転化しているためで,平均してスクロースは5~8%くらいしか残っていない。グルコースはスクロースの0.6倍ほどの甘さであるが,フルクトースの方は糖類の中でもっとも甘さが強くスクロースの2倍近い甘さがある。そのため,転化糖は砂糖よりも強い甘さを感じることになる。フルクトースは果糖という名前の通り,甘い果物中にも多く含まれている。グルコースすなわちブドウ糖の名前も元来,この糖がブドウに多く含まれていることに由来する。グルコースは植物ばかりでなく動物にとってもエネルギー源として重要であり,血液,脳中などに存在する(糖尿病患者の血液・尿中には多量に含まれる)。グルコースは栄養源としての他にも,心臓を動かす心筋や肝臓のグリコーゲンの量を高め,細胞の機能を増し,解毒作用を発揮する等の面で重要性が大きい。グルコースやフルクトースのように,他の糖の基本となる単純な糖類を単糖類という。砂糖の化学的成分であるスクロースは,グルコース1分子とフルクトース1分子からつくられるので二糖類,デンプンやグリコーゲンは多数のグルコースが連なった形なので多糖類ということになる。

 スクロースはもっとも重要な糖であるが,生体内でそれに次いで重要な二糖類は,マルトース(麦芽糖)とラクトース(乳糖)である。マルトースはグルコースが2分子グリコシド結合したものである。デンプンをだ液中の酵素アミラーゼで加水分解すると,グルコース2単位ずつが切れてマルトースとして得られる。麦芽中にはこのアミラーゼが多量に含まれるので,麦芽糖の名がある。一方のラクトースは,グルコース1分子とガラクトース1分子がグリコシド結合した形をしている。ラクトースは牛乳中4%,人乳中5~7%含まれるので乳糖の別名がある。ヒトが牛乳を飲むと,小腸の酵素ラクターゼにより分解され,血液中に吸収される。しかし,この酵素が欠損していたり活性が落ちている人の場合には,ラクトースが消化されないまま腸にたまるので,下痢になりやすい。
 生物にとって,デンプンとグリコーゲンに次いで重要な多糖類はセルロースである。デンプンは植物の,グリコーゲンは動物のエネルギー貯蔵庫であるが,セルロースも植物体そのものを組み立てている構造体,すなわち植物繊維として無くてはならない存在である。昔から綿や麻,紙・パルプとして利用されている。

 近年では,アガロースという多糖が食物繊維としてサプリメントのように摂取されることも多くなってきた。トコロ天の多糖成分である。アガロース自体は消化されないが,整腸作用などが注目されている。また,消化されないからダイエット効果も大きい。他には,食品にとろみをつける添加物すなわち増粘多糖類(化学名キサンタンガム),関節の軟骨などにたくさんあるヒアルロン酸,甲殻類(カニ)の甲羅から得られるキチン・キトサンもポピュラーであろう。キサンタンガムは乳液などの化粧品のしっとり感を出す成分として,ヒアルロン酸は関節炎治療薬ばかりではなく化粧品などの保湿成分として,キチン・キトサンは生分解性ポリマー素材として使われている。

執筆者紹介

山田 洋一 (Yoichi Yamada) 宇都宮大学 教育学部 理科教育講座 教授

[ご経歴] 1980年 千葉大学理学部卒業(化学科),東京都立大学大学院理学研究科修士課程修了(化学専攻)。千葉大学大学院自然科学研究科より博士(理学)取得。宇都宮大学助手,助教授を経て現職に至る。
オンライン雑誌「化学教育ジャーナル」日本語版及び英語版
(http://www.juen.ac.jp/scien/cssj/cejrnl.html) 事務局・編集委員。著書「理科がもっと面白くなる科学小話 Q&A100 1分野編」(分担執筆,明治図書出版),「新しい科学の教科書第1分野(化学・物理編)」(編集・分担執筆,文一総合出版),「地球環境の教科書10講」(分担執筆,東京書籍) など。
[ご専門] 有機化学,化学教育,環境教育