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化学よもやま話(2017年07月)

~研究室訪問記~ 科学クラブを訪ねて: 神奈川県立厚木高等学校SS研

はじめに

 TCIメールでは,国内外で活躍する中高等学校の科学クラブの活動を紹介しています。第9回目となる今回は,日本化学会関東支部主催の第33回化学クラブ研究発表会(2016年3月29日)で化学クラブ金賞を受賞した神奈川県立厚木高等学校SS研(厚木市)にスポットを当てたいと思います。なお,第33回化学クラブ研究発表会は,TCIメール171号で詳しく紹介しています。
 同校は「科学的リテラシーと実践的英語活用能力の育成」を学校目標として掲げており,2013年4月には文部科学省「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」の指定を受けています。厚木高校のSSHは,全学年の全生徒を対象に活動を行う全国的にもユニークな取り組みが特徴です。さらに厚木高校が進めるSSH運営指導を「物理」「化学」「生物」「天文宇宙」「英語による発表」の各教科別に大学の先生が支援しています。物理では金子成彦先生(東京大),化学では鈴木俊彰先生(横浜国大),生物では太田啓之先生(東工大),天文宇宙では海老沢研先生(JAXA),英語による発表では、森村久美子先生(東京大)が担当しています。
 

 今回紹介するSS研は,同校が2012年にSSHの指定をめざすに当たり,その研究活動の中心を担う生徒の育成を目的として2011年に発足した若いクラブです。現在,15名の部員が,化学系と生物系のテーマを中心に,日曜を除くほぼ毎日,研究活動に取り組んでいます。取材に伺った2017年1月9日は,祝日(成人の日)にも関わらず,阿部先生の指導のもと1,2年生が研究活動に取り組んでいました。

阿部行宏先生(中央)とSS研(1, 2年生)の皆さん

阿部行宏先生(中央)とSS研(1, 2年生)の皆さん

神奈川県立厚木高等学校SS研の紹介

 SS研の活動は,身近に生息するアオカビからペニシリンを抽出することから始まりました。そして,今回の化学クラブ金賞を受賞した化学系の研究の始まりは,身近な解熱鎮痛剤であるアセトアミノフェンの合成がその第一歩となっています。その際は,横浜国立大学の鈴木俊彰先生の指導を受けたそうです。
 一方,生物系の研究アイデアは,阿部先生が企業で微生物研究を行っていた経験が基になっているとのことです。こうして,クラブ創設以来の先輩と現役生徒たちの弛まぬ努力が,5年目となる2016年に「第33回化学クラブ研究発表会・化学クラブ金賞」や「第13回高校化学グランドコンテスト・大阪市立大学賞&味の素賞」を相次いで受賞する形で花開きました。

「芳香族ニトロ化におけるアミド結合の効果についての研究」有泉愛衣さん

(第33回化学クラブ研究発表会・化学クラブ金賞,2016年3月29日,東京都 芝浦工業大学 豊洲キャンパス)
 TCIメール171号でも紹介した本研究は,アセトアニリド,ホルムアニリド,およびクメンをニトロ化して反応生成物をガスクロマトグラフ(GC)測定することで,それぞれのオルトとパラ位の生成比を解析しています。その結果,アミド結合をもつアセトアニリドとホルムアニリドが,アミド結合をもたないクメンに比べより高いパラ位選択性をもつことを確認しています。さらに,その位置選択性の発現について,アミド結合のC–N結合の二重結合性と関連付けた考察を行っています。

 

GCチャート:クメンのニトロ化

クメンのニトロ化

GCチャート:アセトアニリドのニトロ化

アセトアニリドのニトロ化

GCチャート:ホルムアニリドのニトロ化

ホルムアニリドのニトロ化

 

GC装置

GC装置

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「寒天を用いて砂漠化を食い止める」関根彩乃さん

(第13回高校化学グランドコンテスト・大阪市立大学賞&味の素賞,2016年11月5日・6日,大阪市立大学杉本キャンパス)
 本研究では,独自に開発した「生分解性寒天シート」が水分の蒸発を防いだことに注目し,改良を加え,既存の吸水性ポリビニルアルコール(PVA)を上回る含水性能をもつシートの作成に成功しています。さらにこのシートを用いると,乾燥した環境下でも植物が発芽と成長したことを確認しています。本成果は,地球の砂漠化防止と緑化に応用可能な優れた研究として受賞されました。
 第34回化学クラブ研究発表大会(2017年3月)でも,本研究は研究奨励賞とGSCジュニア賞を受賞しています。過去二年連続で取材してきたこの大会ですが,今年は編集人のスケジュールの都合で参加できず,SS研の成果を直接見られなかったことが残念です。SS研はその後,台湾に飛び立ち,台湾国際サイエンスフェアTISF2017に参加し,化学部門4位を受賞しています。
 めざましい成果を収めた本研究は,SS研初年度の生徒たちが,黒カビを培養し放置した寒天培地をオートクレーブで滅菌処理して廃棄する過程で,その培地が形を保って残っていたことをヒントに始めたとのことです。まさに「セレンディピティ」の典型例と言えそうです。

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「キノコのセルロース分解能力-バイオマスエタノール生成に向けて-」西池雄大さん

(HSE Conference 2017(日本・台湾研究発表会)金賞,2017年1月7日・8日,台湾・国立嘉義高級中学)
 近年,バイオエタノールが注目されています。しかし,現在主流の,糖質原料(サトウキビなど)やデンプン質原料(とうもろこし・麦など)を原料に使う方法は,食糧問題を引き起こす可能性が指摘されています。そこでSS研では,第三の原料であるセルロース系原料に着目し,環境に与える影響が少ない木質腐朽菌である「キノコ」を使ったバイオエタノールの生成にチャレンジしています。まず,夏季休暇を利用して,木材(セルロース)の分解能力がより高いキノコを求めて亜熱帯の西表島まで足を延ばしています。既に,採取したサンプル中から木材分解能力の高いキノコ2種を見出しています。本成果は,台湾のSSH相当校との合同研究発表会であるHSE Conference 2017(日本・台湾研究発表会)で紹介され,優れた研究として金賞を受賞しました。

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おわりに

 本取材では,本文でも紹介した黒カビの寒天培地の話や,西表島フィールドワークで「特大ヒル」に噛まれた話など,若いクラブらしい熱気溢れた話を聞くことができました。さらに,取材後に開催された第34回化学クラブ研究発表会でも,昨年に続いて連続入賞をしています。厚木高等学校SS研のご活躍とご発展を期待しています。新しい出会いと発見を求めて,今後も中・高校などの学校科学クラブのご紹介を続けていく予定です。

西表島フィールドワーク

西表島フィールドワーク

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