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エピジェネティクス研究用生理活性小分子
「エピジェネティクス」という用語は、1942年にConrad H. Waddingtonにより初めて提唱されました1)。それまで遺伝学では考慮されていなかった、後天的にDNAや核のヒストンタンパク質が化学装飾されるメカニズムです2)。DNAの塩基配列は変化しませんが、個体発生や細胞分化、がん化の過程などで起こる化学修飾により、遺伝子発現などを調節する制御機構です。代表的なメカニズムとして、DNAメチル化とヒストン修飾が知られています3,4)。
DNAメチル化のメカニズム
CpGジヌクレオチドに含まれるシトシンは、メチル化されて5-メチルシトシンになります。哺乳類では、遺伝子内のシトシンがメチル化されると、その遺伝子の発現が変化します。このメカニズムは、エピジェネティクスと呼ばれる遺伝子制御を研究する分野の一部です。メチル基を付加する酵素は、DNAメチルトランスフェラーゼと呼ばれ、脱メチル化酵素はDNAデメチラーゼと呼ばれ、哺乳類では3種類のDNAメチル化酵素と3種類のDNA脱メチル化酵素が見つかっています。
ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)のメカニズム
ゲノムDNAはヒストンというタンパク質に巻き付いた状態(ヌクレオソーム)で核内に収納されています。ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)はヌクレオソームの構造を変化させることで、遺伝子の発現を制御する重要な役割を果たしていると考えられています。ヒストンアセチル化酵素や脱アセチル化酵素が種々同定されています。また、HDACは細胞周期や分化の制御にも関与していると考えられており、この制御がうまくいかないと、ある種のがんが発生することが報告されています。SAHA(製品コード:H1388)などのHDAC阻害剤によるHDAC活性の阻害は、in vitroでは形質転換細胞の分化および/またはアポトーシスを誘導し、マウスモデルでは腫瘍の成長を抑制することが知られています。
リシン特異的脱メチル化酵素(LSD)阻害剤
LSD (lysine specific demethylase)は、FAD (flavin adenine dinucleotide)を補酵素としてヒストンタンパク質中のメチル化リシン残基を脱メチル化する酵素であり、2種類のアイソフォーム (LSD1, LSD2)が存在し、これらはエピジェネティックに遺伝子の発現を制御していることが知られています。LSD1の異常発現はがん幹細胞の維持に関与しており、がんの治療標的として期待されています5,6)。LSD2は、LSD1とは異なるヌクレオソームと相互作用し、異なる生物学的役割を果たすことが分かっていますが、未知の部分が多く機能解明の研究が行われています7)。
弊社では、LSD Inhibitor S1024(製品コード:B6490)とLSD Inhibitor S1025(製品コード:B6491)の2つのLSD阻害剤8)をご用意しています。
引用文献
- 1) The Epigenotype
- 2) Epigenetic mechanisms of gene regulation, ed. by R. A Martienssen, A. D Riggs, V. E. A. Russo, Cold Spring Harbor Laboratory, New York, 1996.
- 3) Epigenetic Gene Regulation in the Bacterial World
- 4) Developmental roles of the histone lysine demethylases
- 5) LSD1/KDM1A, a gate-keeper of cancer stemness and a promising therapeutic target
- 6) Overexpression of the shortest isoform of histone demethylase LSD1 primes hematopoietic stem cells for malignant transformation
- 7) Structural insight into inhibitors of flavin adenine dinucleotide-dependent lysine demethylases
- 8) Structure–Activity Relationship and In Silico Evaluation of cis- and trans-PCPA-Derived Inhibitors of LSD1 and LSD2