ポルフィリンは4つのピロールが縮合した環状構造を持っており,その金属錯体は光合成において光吸収および光電子移動の役割を果たすクロロフィルや,血液中で酸素を運搬するヘモグロビンのヘムなどに含まれており,生体中で重要な役割を担う化合物です。ポルフィリン金属錯体は,光電子機能性材料や金属錯体触媒,分子性導電材料として多方面で用いられています。ポルフィリン金属錯体は,ポルフィリンの周辺置換基,中心金属,アキシアル位の配位子を変化させることで実に多彩な機能性を発揮します。一般的なポルフィリン金属錯体は400-500 nm 付近にソーレー帯(Soret band)と呼ばれる鋭い吸収帯,およびQ帯と呼ばれる 500-700 nm 付近に比較的弱い吸収帯を持ちます。ソーレー帯のモル吸光係数は106 M/cm のオーダーに達するものもあり,クロロフィルやポルフィリン亜鉛錯体などでは吸収した光は緩和せず,光電子移動が容易に起こります。このため,ポルフィリン金属錯体は人工光合成の観点からの光化学反応(二酸化炭素の還元など)や太陽電池の材料として研究開発されています。
一方,ポルフィリンと類似の構造を持つフタロシアニンは自然界には存在せず,その金属錯体は新幹線の車体や電子写真の感光体,CD-Rの記録媒体などに使われる人工色素です。有機半導体として有機トランジスタの材料や,有機EL素子のホール注入材料としても利用されています。また,フタロシアニン金属錯体は,ソーレー帯の領域よりもQ帯の方が強い光吸収を示し,ポルフィリンのそれに比べて長波長シフトしています。中心金属やπ骨格を拡大することにより近赤外領域まで波長をシフトさせることができます。また,ポルフィリンやフタロシアニンはその巨大なπ共役構造のため溶解度が低いものが多く,アルキル基などの導入により高溶解性の化合物も合成開発されています。