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化学よもやま話

~研究室訪問記~ 科学クラブを訪ねて: 宮城県仙台第二高等学校 化学部&日本化学会関東支部 化学クラブ研究発表会

宮城県仙台第二高等学校 化学部

はじめに

 TCIメールでは,国内外で活躍する中高等学校の科学クラブの活動を紹介しています。第七回目となる訪問では再び関東地方を飛び出して東北地区に足を延ばしてきました。今回は,化学を含む幅広い科学分野において多数の受賞歴を持つ宮城県仙台第二高等学校化学部にスポットを当てたいと思います。本校は,2011年11月に「酸化銀(I)Ag2Oの約10倍の抗菌効果をもつAg2O3クラスレート」の報告が学術誌(Journal of Materials Science)に掲載されて大きな反響を呼んでおります。さらに,昨年に引き続き,3月の化学会年会会場で行われた中学校・高等学校クラブの生徒を対象とした化学クラブ研究発表会(日本化学会関東支部主催)にも足を運んできましたので,併せて紹介したいと思います。

 同校は「至誠業に励み 雄大剛健の風を養い ともに敬愛切磋を怠らず」という教育目標の下,自主・自律の精神に溢れた自由な校風を特徴としています。化学部では研究テーマを生徒自身が考え,先生にプレゼンテーションを行っています。こんなところからも同校の校風を垣間見ることができます。取材に伺った2月25日はちょうど定期試験の終了日で,実験室は試験が終わった解放感と研究への意欲に満ち溢れていました。

渡辺尚先生(前列右)と化学部のみなさん(展示会TCIブース名物のボールペンを手にしながら)

渡辺尚先生(前列右)と化学部のみなさん(展示会TCIブース名物のボールペンを手にしながら)

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宮城県仙台第二高等学校化学部の紹介

 仙台第二高等学校化学部は,科学者の卵として楽しみながら化学(科学)力を研くことを重点に置いて活動をしています。そのためクラブ名は化学部ですが,研究対象が科学的であれば他分野の活動であっても積極的に取り組んでいます。例えば過去には「ペットボトルロケットを用いた災害時における簡易的な物資運搬法の研究」を行っており,現在でも災害予測に役立つと期待される「砂山シミュレーション-揺れによる斜面崩壊地図-の研究」が進行中です。また,反応時間の長さや実験装置の問題から高校化学クラブでは実施例が少ない有機合成化学の研究である「バニリンの合成」にも果敢にチャレンジしています。
 このように各部員が個人もしくは共同で研究テーマを持ち,日々の研究を論文にまとめて日本学生科学賞,科学技術チャレンジ,全国高校生理科論文大賞,高校化学グランドコンテストなどへ投稿しています。2014年度は色素増感太陽電池の研究を発表し,国際大会である国際学生科学技術フェア(ISEF)の受賞者を輩出しています。一方,コンテストでは化学グランプリ入賞や化学オリンピック・日本代表候補を目標にしています。

歴代の化学グランプリ・オリンピックの受賞者と代表・代表候補者のペナント

歴代の化学グランプリ・オリンピックの受賞者と代表・代表候補者のペナント

「バニリンの合成」13C NMRチャートとTLC

「バニリンの合成」13C NMRチャートとTLC

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抗菌物質「Ag2O3クラスレート」

・銀イオンの抗菌活性
 銀イオンに抗菌活性があることは抗生物質の登場以前から知られていました。その作用機序はいまだ明らかにはなっていませんが,現在でも銀イオンは制汗スプレーなど広く利用されています。これらの用途では一般的に酸化銀(I)Ag2Oが用いられています。また,合成抗菌剤であるスルファジアジン銀(TCI試薬S0595)も使われています。このように銀イオンの抗菌作用が注目される中,彼らの研究により新しい展開が始まりました。
・生徒らの新しい発見とは
 2009年7月,高校科学クラブで広く行われている「銅樹」の作製をヒントに「銀樹」を作製するという発想から本研究は始まります。白金電極を用いて硝酸銀水溶液の電気分解を行ったところ,陰極側には銀樹が,陽極側には黒色針状結晶が生じました。生徒たちはこの黒色針状結晶を特定するために東北大学附属図書館まで足を運んで関連文献を調査し,東北大学分析センターでX線結晶解析によって結晶を分析しました。その結果,本結晶はAg2O3のクラスレート(包接化合物)であることを突き止めました。生徒たちが行った方法は従来の電気製錬法に比べて極めて安価にAg2O3が得られる特徴を持っていました。
 こうして得られたAg2O3の性質や利用法は当時知られていませんでした。そこで,生徒たちは抗菌活性に注目して調査を行いました。その結果,Ag2O3クラスレートはAg2Oよりも大腸菌に対する抗菌活性が10倍強いことを突き止めました。加えて,酸化力や電気電導性などの物性も明らかにしました。
 ところが,研究も大詰めを迎えた2011年3月11日,校舎は東日本大震災の被害を受け,東北大学分析センターも稼働できなくなってしまいました。しかし,生徒たちはこれらも乗り越えて,その年の8月には高校生バイオサミットで研究成果を発表して科学技術振興機構賞を受賞します。さらに9月にJournal of Materials Scienceに研究論文を投稿し,11月に掲載されました。この輝かしい成果の詳しい内容は,下記論文とWebサイトをご参照ください。

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2014年度研究受賞実績

◇Intel ISEF 2014(ロサンゼルス) 2014年5月17日発表

エネルギー・運輸部門 グランドアワード2等賞,欧州原子核研究機構(CERN)賞,アメリカ化学会賞佳作: 
山中美慧さん 「Development of Highly Efficient and Stable Dye-sensitized Solar Cells Using Natural Hydrangea macrophylla Dyes(塩害に強いあじさいを用いた色素増感太陽電池)」 

◇Googleサイエンスフェアin東北 2014年8月16発表

東北大学賞: 遠藤意拡さん 「砂山シュミレーション~斜面崩壊地形地図~」 
ファイナル進出: 高瀬理人さん,萩原駆さん 「バニリンの合成」

◇22nd International Competition First Step to Nobel Prize in Physics(ポーランド) 2014年10月1日発表

Honourable Mentions(佳作入選):
Aoi Kon (金あおいさん) 「New discoveries concerning ceric ammonium nitrate in the oscillating Belousov-Zhabotinsky reaction」

◇第11回高校化学グランドコンテスト 2014年10月26日発表

大阪市立大学長賞:
萩原駆さん,高瀬 理人さん 「バニリンの新しい全合成の試み~設計・立案から全合成へ~」

◇高校生科学技術チャレンジ(JSEC2014) 2014年12月13~14日開催

科学技術政策担当大臣賞(Intel ISEF 2015派遣内定):
遠藤意拡さん 「砂山シュミレーション~揺れによる斜面崩壊~」
本研究はIntel ISEF 2015で地球環境科学部門 優秀賞3等賞を受賞しました。同一高校からの二年連続受賞は日本初の快挙です。

◇Intel ISEF 2015(米国ピッツバーグ) 2015年5月10~15日開催

遠藤意拡さん 「Landslide Forecasting: Contour Shape as a Major Factor in Slope Failure」

2014年コンクール参加受賞実績

全国高校化学グランプリ2014 2014年8月22~23日開催

金賞: 石垣貴史さん
東北支部長賞: 鈴木透馬さん,丹野翔大さん

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おわりに

 今回の集合写真撮影ではTCI展示ブース名物のTCIボールペンを全員で広げてみました。その生徒たちが撮影直後に行ったことはボールペンを「分解」→「部品の観察」→「組立」でした。さすが好奇心旺盛な研究者の卵たちです。これらの生徒たちによる新研究テーマのプレゼンテーションを聞くことが渡辺先生の楽しみなのだとか。まさに「この先生にこの生徒たちあり」と思いました。仙台第二高等学校の化学部のご活躍とご発展を期待しています。新しい出会いと発見を求めて,今後も中・高校などの学校科学クラブのご紹介を続けていく予定です。

追記: 顧問の渡辺尚先生は2015年4月より宮城教育大学 教育学部 理科教育講座にご活躍の場を移されております。渡辺先生の後に続く先生方がここから巣立つことを期待しております。

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第32回化学クラブ研究発表会(2015年3月27日,日本大学理工学部 船橋キャンパス)

化学クラブ研究発表会の紹介

 日本化学会関東支部が,中学校・高等学校の化学・理科クラブを対象に,化学に関係のある研究成果を発表する場として,毎年3月頃に開催しているのが「化学クラブ研究発表会」です。昨年に引き続き,今年も足を運んできました。今年は春季年会が関東地区開催であったため,年会会場で同時開催されました。今回の参加学校数は48校,口頭発表が31件,ポスター発表が41件で行われました。参加者は生徒・教員および一般の合計623名を数えました。発表形式は口頭発表(15分),またはポスター発表となっています。各校の発表件数限度は口頭1件まで,口頭とポスター併せても2件までの「狭き門」です。
 さらに今年は,エキシビションとして愛知県立明和高等学校(東海支部化学教育協議会推薦)の口頭発表「植物から抽出されるアントシアニンの性質とその活用についての研究」も行われました。身近な植物(ナスの皮,紫キャベツ,赤ダイコン)からアントシアニン類を抽出し,次いでそれらのアントシアニンを用いて色素増感型太陽電池を作成して発電能力を測定する内容です。さらに各植物のアントシアニンの化学構造と太陽電池の発電能力の関係についてまで考察していました。身近な植物を科学研究材料にまで昇華させたことが印象的でした。
 授与される賞は,化学クラブ金賞,ベストポスター賞,先端化学賞,研究奨励賞,アイデア賞,進歩賞の各賞があります。また新化学技術推進協会から「GSCジュニア賞」が贈られます。GSCとは「グリーン・サステイナブルケミストリー」の略称で,「人と環境にやさしく,持続可能な社会の発展を支える化学および化学技術」の意味を持ちます。

口頭発表

口頭発表(左)

ポスター発表のようす

ポスター発表のようす(右)

受賞校と発表テーマ

 主要各賞は以下の学校が選ばれました。TCIメール159号で紹介した渋谷教育学園幕張高等学校が化学クラブ金賞の栄冠を手にしました。さらに,160号で紹介した駒場東邦高等学校も昨年に引き続き連続でベストポスター賞に輝きました。受賞された各校の皆様おめでとうございます。
(各研究の要旨は公式サイトで読むことが可能です)

◇化学クラブ金賞(口頭発表で特に優れた発表を行った学校)

茨城県立水戸第一高等学校 「メイラード反応における窒素原子の影響」
芝中学校・高等学校 「鉛を使わないガラスの製作」
渋谷教育学園幕張高等学校 「電極間の電極物質に起こる電気分解」

◇ベストポスター賞(ポスター発表で特に優れた発表を行った学校)

駒場東邦中学校高等学校 「ラテックスゴムの研究」
樹徳高等学校 「こんにゃく飛粉からバイオエタノールの生産」
東京都立葛西工業高等学校 「平面的に成長する銀樹の研究Ⅱ —均一性のある銀樹をつくる条件を発見し,巨大銀樹つくりに成功—」
横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校 「メタン菌の培養とバイオガスの分析」

◇GSCジュニア賞

駒場東邦中学校高等学校,城北中学校・高等学校,市川高等学校,樹徳高等学校,横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校,東京都立科学技術高等学校(2件)

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