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ケムステ記事ピックアップ — 創薬におけるモダリティの意味と具体例

創薬の現場において、新規モダリティの開拓のようなフレーズが頻繁に使われるようになっています。しかし、具体的にどういう概念を指しているのか、説明に困る場合も多いのではないでしょうか。とりあえず、やれ低分子だ中分子だペプチドだ核酸だと言いますが、では創薬におけるモダリティとは何かを20字以内で簡潔に記述せよ、と言われたら皆様はどう答えますか?

筆者が最も分かりやすい説明だと感じたのは、創薬モダリティ =どういうお薬を何から作るかという選択 (引用元: 株式会社ファンペップ様)という一文です。詳しくは引用元をご覧ください。

モダリティ (modality)をgoo 英和・和英辞書で引くと、

  1. (特定の)様式,あり方
  2. 《論理学》様相,様態(mode
  3. 《医学》(診断の助けとなる)類似した症状[徴候]
  4. 《心理学》様相(◇視覚・触覚などそれぞれの感覚器による感覚)
  5. 《文法》法性

のように説明されています。元々は言語学分野で使われていた言葉のようです

医療分野では元来、drug modalityというと単に治療法を指すような使い方がされていました。また医療機器の分類 (CT、X線、MRI)の表す言葉でもありました。英語圏ではこちらのような興味深い記述もありますが、深追いするとキリが無さそうなのでやめておきます。創薬業界でモダリティという単語がいつ頃から現在の意味で使われ始めたのは定かではありませんが、本邦での流行のきっかけとなったのは2018年にAMEDが打ち出したこのような企画であるかと思います。筆者は2010年ごろよりアカデミア創薬に従事してきましたが、モダリティモダリティと耳に入ってくるようになったのが2018~2019年ごろでした。そう考えると、「創薬モダリティ」はここ数年で急激に流行した言葉ということになります。 2013年発行の「メディシナルケミストリー用語解説 310」には「モダリティ」の言葉は載っていませんでした。

筆者が薬剤師国家試験を受験した200X年には、医薬品の大まかな分類というと、低分子医薬とバイオ医薬 (抗体・酵素・ホルモンなど) に大別される感じでした。インフリキシマブ (レミケード®)、リツキシマブ (リツキサン®)、エタネルセプト (エンブレル®) などが医薬品売上額上位を占めていた頃で、バイオ医薬ageの低分子医薬sageが始まりかけていたあたりです。その後、iPS細胞の発見、タンパク質間相互作用阻害剤の実用化、核酸化学細胞工学の進歩などにより、「どういうお薬を何から作るかという選択」の幅が一挙に増し、現在の創薬モダリティ多様化が生じました。

では、実際にどのような創薬モダリティが存在するのでしょうか。細分化すると何処までも出来そうなので、代表的な8種類を簡単に紹介します。

1. 低分子医薬

医薬品といえばまずはこれ。一般的に分子量500未満の医薬品を指します。従来の有機化学によって開発される最も身近なモダリティであり、低分子の時代は終わったと言われる現在でも、毎年新規に上市される医薬品の60%以上をこのモダリティが占めています

代表的医薬品: アスピリン、アセトアミノフェン、アトルバスタチン (リピトール®)、ファモチジン (ガスター®)、カンデサルタン (ブロプレス®)、ドネペジル塩酸塩 (アリセプト®)

2. 抗体医薬

いわゆるモノクローナル抗体技術を応用して開発された医薬品であり、タンパク質であるため分子量は数十万、当然経口投与はできず、注射剤として使用されます。炎症か癌を標的とするものが大部分を占めます。

代表的医薬品: インフリキシマブ (レミケード®)、アダリムマブ (ヒュミラ®)、トラスツズマブ (ハーセプチン®)、セツキシマブ (アービタックス®)、ニボルマブ (オブジーボ®)

3. 抗体薬物複合体 (ADC)

広義の抗体医薬ですが、しばしば別個のモダリティとして扱われます。高い薬理活性を持ちながらも毒性が強くそのままでは投与不可能な低~中分子 (後述) を、リンカーを介して抗体と化学結合させた分子です。抗体の作用により抗原分子を発現する標的へ集積し局所的な治療効果を発揮するモダリティで、主に抗がん剤として使用されます。その設計には化学の技術がふんだんに盛り込まれています (参考文献)。

代表的医薬品: ゲムツズマブオゾガマイシン (マイロターグ®)、トラスツズマブ デルクステカン (エンハーツ®)、トラスツズマブ エムタンシン (カドサイラ®)

4. 中分子医薬

分子量500未満の低分子医薬に対し、500~5000程度の分子量を有するものを中分子医薬と呼びます。ペプチドや核酸医薬は別モダリティとする場合もありますが、ここに含むことも多いです。分子量5000強のペプチド医薬品としてはインスリン製剤がおそらく最も古いものですが、それよりは放線菌由来の特殊環状ペプチドなどが代表例として挙げられます。それらはいわゆるタンパク質間相互作用 (PPI)阻害剤としても知られており、近年盛んに研究が行われるようになってきています。低分子医薬品のような化合物ライブラリも整備されており、経口投与可能な点からも最注目の創薬モダリティです。

代表的医薬品: シクロスポリン、タクロリムス、ラパマイシン、ヌシネルセン (スピンラザ®、アンチセンス核酸)

5. 標的タンパク質分解誘導薬

いわゆるPROTAC® (proteolysis targeting chimera)に代表されるモダリティで、標的タンパク質に結合する低分子~中分子化合物と、ユビキチンE3リガーゼのようなタンパク質分解に関与する酵素のリガンドをリンカーで繋ぎ、分解を誘導する薬剤です。これまでundruggableとされていた特定のリガンドを持たないタンパク質を創薬標的とすることができるのが最大の利点です。まだまだ発展途上ですが、PROTAC関連の論文数は鰻登りであり、ケミカルバイオロジーの領域においても一大潮流となっています。

代表的医薬品: 上市されたものは2022年3月時点では無し。サリドマイド、レナリドミド、ポマリドミドがE3リガーゼのリガンドとして使用されている。

6. 遺伝子治療薬

アデノウイルスベクターなどを使用し、欠陥のある遺伝子を修復することで治療効果を発揮します。脊髄性筋萎縮症の治療薬ゾルゲンスマ®やB細胞性急性リンパ芽球性白血病治療薬キムリア®などが該当します。難病治療を可能とした画期的なモダリティですが、その高額な薬価 (ゾルゲンスマは1回の治療あたり1億6,707万7,222円、2020年)に対する使用の是非が議論されている難しい医薬品でもあります。

代表的医薬品: オナセムノゲン アベパルボベック (ゾルゲンスマ®)、チサゲンレクロイセル (キムリア®)

7. 細胞医薬

iPS細胞から作製したオルガノイドなど、細胞工学によって創成された再生医療に用いられる移植用細胞・組織などを示すモダリティです。実用化に向けて鋭意研究が進んでいます。遺伝子治療薬を細胞医薬に含める場合があります。2022年3月時点で再生医療として上市されたものはありませんが、網膜色素上皮不全症治療薬としての移植用細胞懸濁液に関する臨床試験が始まっています (参考サイト)。

8. mRNAワクチン

中分子の範疇である核酸医薬を超えた分子量数十万のmRNAであるため、核酸医薬とは別モダリティとして扱われます。まさに注目のモダリティで、SARS-CoV-2のパンデミックを機に初めて承認・実用化されました。季節性インフルエンザウイルスに対するmRNAワクチンの開発も試みられています。生ワクチンや不活化ワクチンと比べ大量生産に向いているという利点もあります。2021年のケムステV年末ライブでは、「今年の分子」としてファイザーとモデルナのmRNAワクチンの有効成分がそれぞれ選ばれました。mRNAワクチンについての詳しい解説記事はコチラ

代表的医薬品: トジナメラン (コミナティ®筋注)、エラソメラン (スパイクバックス®)

おわりに

以上に挙げただけでも、創薬モダリティの多様化が充分見て取れると思います。何をもって独自のモダリティとするかは提唱者や評価者の裁量によるところも多く、ここ最近はフレーズのみが一人歩きしている印象をやや受けます。ともあれ、「どういうお薬を何から作るかという選択」の幅が増えていくことは薬学者・創薬研究者をワクワクさせてやみません。各モダリティの開発促進と統合により次世代の創薬が活性化することを強く期待します。

※商標および登録商標は、それぞれの所有者の商標および登録商標です。

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